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こんにちは!「スルースのVictory Academy」のスルースです!
学校の体育で鉄棒の授業が始まると、多くの親御さんが心配するのが「うちの子、逆上がりができないけれど運動神経が悪いのかな?」という点ではないでしょうか。
周りの子がスイスイ回っているのを見ると、遺伝や才能のせいにして諦めてしまいそうになる気持ち、痛いほどよくわかります。
しかし、実は逆上がりができない原因の多くは、生まれつきの運動神経よりも「体の使い方のコツ」を知っているかどうかにあると言われています。大切なのは、物理的な理屈にかなった動きができるかどうかだけです。
この記事では、なぜ多くの子が逆上がりでつまずくのか、そしてどうすれば壁を乗り越えられるのかについて、科学的な視点も交えながら分かりやすくお話ししていきたいと思います。
- 運動神経の正体と逆上がりができない本当の理由
- 子供の成長段階に合わせた最適な練習タイミング
- 物理の法則を利用した誰でも回れる具体的なコツ
- 親がやってはいけないNG指導と伸ばすための声かけ
運動神経の正体と逆上がりができない本当の理由

「運動神経が良い子=逆上がりができる」というイメージがありますが、実はその背景にはもっと深い体のメカニズムが隠されているんです。ここでは、運動神経の本当の意味や、子供の体の中で何が起きているのかを、専門的な知見も交えつつ深掘りしていきます!
運動神経が悪いからできないという誤解
まず最初にお伝えしたいのは、「逆上がりができない=運動神経が悪い」と決めつけるのは尚早であり、親御さんの思い込みである可能性が高いということです。
そもそも、医学的・解剖学的な世界において「運動神経(Motor Nerves)」という言葉は、脳から筋肉へ指令を伝える神経そのものを指しており、運動の上手い下手を決定づける単一の器官としては存在しません。
私たちが日常的に「あの子は運動神経が良い」と表現するとき、それは筋肉の量や手足の長さといった「ハードウェア」のスペックを指しているのではなく、脳からの指令を体に伝える「ソフトウェア」の処理能力が高い状態を指しています。
専門的にはこれを「コーディネーション能力(調整力)」と呼びます。
運動の正体は「7つの能力」の組み合わせ
コーディネーション能力とは、目や耳から入った情報を脳が瞬時に処理し、神経を通じて全身の筋肉へ「どのタイミングで」「どのくらいの強さで」動くべきかという指令を正確に送る能力のことです。
これは大きく以下の7つの要素から成り立っています。
| 能力名 | 逆上がりでの役割・意味 |
|---|---|
| 連結能力 | 手の引きつけと足の蹴り上げをスムーズに連動させる力 |
| バランス能力 | 逆さまになっても姿勢を崩さずキープする力 |
| 定位能力 | 回転中に地面や鉄棒との位置関係を把握する力 |
| リズム能力 | 「いち、にの、さん!」でタイミングよく蹴る力 |
| 反応能力 | 合図に素早く反応して動き出す力 |
| 変換能力 | 失敗した時にすぐに体勢を立て直す力 |
| 識別能力 | 鉄棒を強く握ったり、体の力を抜いたり調整する力 |
逆上がりに関して言えば、これら全てが必要なわけではありません。
特に重要なのが、手で引きつける動作と足で蹴り上げる動作をスムーズに連動させる「連結能力」、回転中に上下が逆さまになっても姿勢を崩さない「バランス能力」、そして回転している最中に地面や鉄棒の位置を正確に把握する「定位能力」です。
「できない」のではなく「回路」がないだけ
逆上がりができない子は、決して運動能力のポテンシャルそのものが低いわけではありません。
単に、鉄棒という特殊な非日常的な状況下において、上記の能力を統合するための「脳内の指令回路(シナプス)」がまだ十分に繋がっていないだけである可能性が高いのです。
これは、脳の中に「逆上がり」というフォルダや地図(ボディスキーマ)がまだ作成されていない状態と言い換えることもできます。地図がない場所には、どんなに高性能な車(体)であっても到達することはできませんよね。
つまり、逆上がりができないのは「能力不足」というより、単なる「データ不足」に近い状態なのです。
自転車の練習と同じ「運動学習」のプロセス
このメカニズムを理解するために、自転車に初めて乗ったときのことを思い出してみてください。
最初はハンドル操作とペダルを漕ぐ動作がバラバラで、何度も転んだり、うまく進めなかったりしたはずです。しかし、練習を重ねるうちに、いつの間にか何も考えずにスイスイ乗れるようになります。
これは、反復練習によって脳内の神経回路が繋がり、動作が「自動化」されたからです。逆上がりもこれと全く同じ「運動学習」のプロセスです。
正しい順序と理論で体に動きを覚え込ませれば、脳内に新しい神経回路が形成され、できるようになる可能性は飛躍的に高まります。
「うちの子は運動神経が悪いから無理」と決めつけてしまうのは、まだ自転車に乗ったことがない子に対して「君は自転車の才能がないから諦めなさい」と言っているのと同じくらい、もったいないことなのです。
「運動神経」の正体は脳と体をつなぐ「回路(コーディネーション能力)」のことであり、これは生まれつきの才能だけでなく、後天的な練習によって新しく作り出すことができる「技術」です。
できない原因は筋力不足なのか

「うちの子は腕が細くて力が弱いから、体を持ち上げられないんだ…。」
鉄棒の前で立ち尽くす我が子を見て、そう感じてしまう親御さんは非常に多いです。確かに、自分の体重を支えるための最低限の筋力は必要不可欠です。
しかし、数多くの子供たちを指導してきた筆者の経験から感じるのは、「逆上がりができない原因の多くは、単なる筋力不足ではない」という事実です。
必要なのは「懸垂する力」ではない
多くの人が誤解しているのが、「逆上がり=懸垂のような強い腕力が必要」というイメージです。
しかし、逆上がりにおいて求められるのは、体をグイッと持ち上げる「動的なパワー」以上に、曲げた肘をそのままキープする「静的な維持力(アイソメトリックな筋力)」が重要になります。
では、具体的にどれくらいの筋力があれば合格ラインなのでしょうか? その目安の一つは以下の通りです。
- 鉄棒に飛びつき、肘を直角に曲げた状態(通称:ダンゴムシの姿勢)を作る。
- その姿勢を「5秒〜10秒間」キープできるか。
これができれば、基礎的な筋力はあると考えられます。
懸垂が1回もできなくても悲観する必要はありません。逆上がりの回転動作は通常2〜3秒で完了します。つまり、その数秒間だけ、鉄棒と体が離れないように「ロックする力」さえあれば、物理的には十分に回れる可能性があるのです。
力自慢の子が陥る「腕伸び」の罠
むしろ興味深いのは、普段から力が強くて運動が得意なわんぱくなお子さんの方が、意外と逆上がりに苦戦するケースが珍しくないことです。
力に自信がある子は、無意識のうちに「腕の力だけで回ろう」としてしまいます。すると、スタートの瞬間にグッと腕に力を込めるあまり、腕が伸びきった状態で回転に入ろうとしてしまうのです。
これは、重たい荷物を持つ時を想像すると分かりやすいでしょう。
荷物を体のピタリと密着させて持てば軽く感じますが、腕を前にならえのように伸ばした状態で持とうとすれば、とてつもなく重く感じますよね。これと同じ原理で、腕が伸びて重心が鉄棒から遠ざかると、体感重量は何倍にも膨れ上がります。
どんなに腕力があっても、テコの原理で増幅された負荷には勝てません。一方で、非力に見える女の子がクルッと回れるのは、腕力に頼らず、しっかりと脇を締めて「小さく回る」ことで、負荷を最小限に抑えているからなのです。
「力の強さ」より「力の方向」が重要
結局のところ、逆上がりの成否を大きく分けるのは、エンジンの大きさ(筋力)よりも、ハンドリング(体の使い方)です。
できない子の動きを観察すると、せっかくのキックの力が分散してしまっていることがよく分かります。
- 手首を返すタイミングが遅い
- 足をおへそ側ではなく、外側に蹴り出している
- 肘が開いて力が逃げている
こうした力の漏れをなくし、今ある筋力を効率よく回転エネルギーに変換する技術を身につけることこそが、解決への近道です。
「もっと筋トレしなきゃ」と焦る前に、まずは「肘を畳む」というコツを徹底するだけで、スムーズに回れるようになることが多々あります。
逆上がりにムキムキの腕力は必須ではありません。「ダンゴムシの姿勢」をキープできるなら、基礎筋力は合格点です!必要なのはパワーアップよりも、「体を鉄棒から離さない技術」の習得です!
運動能力は遺伝だけで決まる?

「私自身が子供の頃、体育の時間は苦痛でしかなかったから…」 「夫も私も運動音痴だから、うちの子もきっとできないはず…」
そんなふうに、遺伝のせいにして諦めかけてはいませんか?
逆上がりの練習をしている我が子を見て、かつての自分を重ねてしまう気持ち、よく分かります。しかし、近年のスポーツ科学においては、「運動能力は遺伝だけでなく、環境や経験によって大きく変わる」という見方が強まっています。
遺伝するのは「体格」、作られるのは「器用さ」
もちろん、遺伝の影響が全くないわけではありません。
例えば、「身長の伸びやすさ」「骨格の太さ」「筋肉の質(瞬発力に優れた速筋が多いか、持久力に優れた遅筋が多いか)」といった、いわゆるハードウェアの部分は親からの遺伝情報を強く受け継ぎます。
しかし、逆上がりに必要な「自分の体を思った通りに動かす能力(器用さ)」や「新しい動きを覚える能力(運動学習能力)」といったソフトウェアの部分に関しては、遺伝の影響だけでなく、生まれてからどれだけ多様な動きを経験し、脳の回路を刺激したかという「環境要因」も大きく関与すると言われています。
神経系発達のゴールデンタイムを見逃すな
ここで非常に重要になるのが、子供の発育発達を語る上で欠かせない「スキャモンの発育曲線」という理論です。

このグラフは、人間の体の様々な器官が、どの時期にどれくらいのスピードで成長するかを示したものです。これを見ると、筋肉や骨格(一般型)が思春期以降に急激に伸びるのに対し、脳や神経系(神経型)は、全く異なる成長カーブを描いていることが分かります。
- 出生直後から急激に発達を開始
- 4〜5歳で成人の約80%に到達
- 12歳頃(小学校高学年)にはほぼ100%に達して完成する
つまり、小学校を卒業するまでの期間こそが、脳の神経回路(シナプス)を張り巡らせるための「一生に一度の建設ラッシュ」なのです。
この時期に、鉄棒で逆さまになったり、ジャングルジムを登ったりといった「非日常的な刺激」を脳に与えることは、将来の運動能力の土台(OS)をアップグレードする絶好の機会となります。
もしこの時期に「どうせ遺伝だから」と運動を避けてしまうと、せっかくの成長機会を逃してしまうことになります。
逆に言えば、親御さんが運動が苦手でも、この時期に適切な環境さえ用意してあげれば、お子さんは「運動神経の良い子」へと育つ可能性を十分に秘めているのです。
親の一言が子供の可能性を奪う?
また、技術的な問題以上に深刻なのが、心理的な影響です。
親御さんが「ママも逆上がりできなかったから、あなたも無理かもね」と何気なく言ってしまう一言。これが子供にとっては強力なネガティブな暗示となってしまうことがあります。
心理学では、周囲が期待しないことで実際に相手の成績や能力が低下してしまう現象を「ゴーレム効果」と呼びます。
子供は親の言葉を敏感に受け取ります。「自分はできない家系なんだ」と思い込むと、脳は無意識に失敗するイメージを作り出し、本来持っている能力にブレーキをかけてしまうことがあります。
逆に、「練習すればきっとできるよ!」「パパも練習したらできるようになったよ!」とポジティブな期待をかけることで、成績が向上することがあります。この現象を「ピグマリオン効果」と呼びます。
まずは親御さん自身が「練習すれば変わる!」と信じ、お子さんの可能性を信じ抜いてあげてください。その信頼こそが、子供の挑戦心を支える最強のセーフティーネットになるのです!
習得に適した年齢と発育の時期

では、いつから練習を始めればいいのでしょうか?
その答えは子供の神経系の発達段階に合わせて、最適なアプローチを変えていくことです。
まず、プレゴールデンエイジと呼ばれる神経系の発達が著しく、多種多様な動きをスポンジのように吸収する5〜8歳頃です。
この時期は、特定のスポーツの技術を教え込むよりも、遊びの中で様々な動きを経験させることが重要です。
鉄棒で言えば、「豚の丸焼き」や「ダンゴムシ」などの遊びを通じて、逆さまになる感覚や、体を支える感覚を養うのに最適な時期です。この時期に「鉄棒=楽しい」というイメージを植え付けておくことが、後の技術習得をスムーズにします。
そして、ゴールデンエイジと呼ばれる神経系がほぼ完成に近づく9〜12歳頃です。
この時期は、一生のうちで最も運動神経が発達する時期と言われ、見た動きをすぐに自分のものにできる「即座習得」が可能になります。
まさに逆上がりの技術を習得するのに非常に適した時期と言えますね。論理的な思考力も育ってくるため、「なぜ回れないのか」「どうすれば回れるのか」を頭で理解しながら練習することで、飛躍的に上達します。
実際に、スポーツ庁の調査などでも、幼少期から運動習慣のある子供は、その後の運動能力が高い傾向にあることが示されています。
もちろん、ゴールデンエイジを過ぎた中学生以降でも、筋力の発達とともに身体操作を学び直せば習得は十分に可能ですが、神経系が柔軟なこの時期に取り組む価値は計り知れません。 (出典:スポーツ庁『数字で見る!「6」歳までの幼児期における運動習慣が与える影響』)
失敗メカニズムの科学的な分析
精神論ではなく、物理学(バイオメカニクス)の視点で失敗の原因を見てみましょう。
逆上がり成功のカギを握るのは、「慣性モーメント」と「回転半径」という物理法則です。
逆上がりを物理的に説明すると、「鉄棒という固定された回転軸を中心に、身体重心(おへそ周り)を持ち上げ、回転させる運動」となります。
ここで重要になるのが、「回転の中心(鉄棒)と重心(体)の距離」です。

フィギュアスケートのスピンを想像してみてください。
選手は回転を速くするとき、広げていた両手を胸の前で強く抱きかかえ、体を一本の細い軸のようにしますよね。手を広げると回転が遅くなり、手を体に引き寄せると回転が速くなる。これと同じ原理が逆上がりにも働いています。
失敗する子の多くは、蹴り上げた瞬間に腕が伸びきってしまい、体と鉄棒が離れてしまっています。
こうなると回転半径が大きくなり、体を回転させるのに必要なエネルギーが何倍にも膨れ上がってしまいます。結果として、自分の体重を支えきれずに落下してしまうのです。
逆に言えば、成功のための条件は「いかに体(重心)を鉄棒(回転軸)に近づけたまま回るか」に尽きます。
脇を締め、肘を鋭角に曲げて体を引き寄せる動作は、単に体を支えるためだけでなく、この回転半径を最小化し、最小限の力で回るために不可欠な要素なのです。この理屈さえ分かれば、なぜ「お腹を鉄棒にくっつけて!」と指導されるのか、その意味が深く理解できるはずです!
逆上がりで運動神経を伸ばす練習法

ここからは、実際にどうすれば逆上がりができるようになるのか、運動神経を刺激しながら効率よく習得するための具体的なメソッドをご紹介します。根性論ではなく、理論に基づいたアプローチです!
タオルを使った段階的な練習
筆者が最もおすすめしたいのが、タオルを使った練習法です。これは多くの体操教室でも導入されている方法で、単なる「手助け」ではありません。
脳に「正しい回転軌道」を体感としてインプットするための、非常に理にかなったトレーニング方法なんです。
やり方はとても簡単です。

フェイスタオルなどの少し長めのタオルを腰の後ろに回し、両端を鉄棒にかけ、自分の手と一緒に上から握り込むだけです。こうすると、タオルが「第二の筋肉」として機能し、腕力が不足していても、体と鉄棒が離れないように物理的にサポートしてくれます。
この状態で蹴り上げると、鉄棒とお腹が密着したまま回転できるため、遠心力がスムーズに働き、「あれ?こんなに簡単に回れるの?」と子供自身が驚くほどスムーズに回れることがあります。
この瞬間に、脳内では「ああ、こうやって力を入れれば回れるんだ」という成功体験が刻まれ、未接続だった神経回路が繋がるきっかけとなります。
ただし、ずっとタオルに頼っていてはいけません。ここからが重要で、「フェーディング(段階的解除)」という手法を使います。
最初はガッチリと短く結んでいたタオルを、成功するたびに少しずつ長く(緩く)していきます。タオルが緩むにつれて、子供は自力で体を引き寄せる力を使い始めなければなりません。最終的にタオルなしでも回れるようになるまで、スモールステップで進めていくのがコツですよ!
重心移動と回転のコツを掴む
タオルを使った練習で「体が回る」という感覚を脳が理解し始めたら、次はそれを「技術」として定着させるフェーズに入ります。
ここで必要になるのは、闇雲なパワーではなく、物理法則に基づいた「フォームの微調整」です。 逆上がりを成功させるための「動きのレシピ」には、絶対に外せない3つの隠し味がります。
それは「キックの方向」「目線のコントロール」、そして意外と知られていない「手首の返し」です。これらをマスターすれば、成功率は飛躍的に向上します。
1. キックは「前」ではなく「上」へ蹴る
最も多くの子供たちが陥っている罠、それが「キックのベクトル(力の方向)の間違い」です。
鉄棒を前にすると、子供はどうしても「前へ前へ」という意識が働いてしまいます。その結果、足を「前方(鉄棒の向こう側)」に向かって蹴り出してしまいます。しかし、物理的に考えてみてください。
前方向に蹴ると、その反作用で体は「後ろ」に行こうとします。つまり、一生懸命蹴れば蹴るほど、体は鉄棒から遠ざかってしまうのです。
正解は、「自分の頭上の空(天井)」あるいは「自分の背中側」に向かって蹴り上げることです。イメージとしては、サッカーボールを前に蹴るのではなく、オーバーヘッドキックをする感覚に近いですね。

- NGな声かけ:「もっと強く蹴って!」(方向が修正されず、ただ力むだけ)
- OKな声かけ:「前じゃなくて、空(天井)をキックしてごらん!」 親御さんがお子さんの頭より少し後ろの高い位置に手をかざし、「ここまで足でタッチして!」と具体的なターゲットを示してあげるのも非常に効果的です。
2. 「おへそを見る」だけで体は回る
次に重要なのが「目線」です。
これは単なる精神論ではなく、人間の体に備わっている「緊張性頸反射(きんちょうせいけいはんしゃ)」などの生理学的なメカニズムを利用するためです。
人間は、顎が上がって頭が背中側に傾くと、反射的に背筋が収縮して体が「反る(伸展)」傾向があります。回転中に怖がって空を見たり、地面を確認しようとして顎が上がると、背中が弓なりに反ってしまいます。
逆上がりで背中が反ると、重心が鉄棒から大きく離れてしまい、その時点で回転はストップしてしまいます。
逆に、顎を引いて頭を前屈させると、背中が丸まり(屈曲)、腹筋に力が入りやすくなります。つまり、「ボールのような球体」になれるのです。
球体になれば、転がるのは簡単ですよね。 成功のための合言葉は、「回っている間は、ずっと自分のおへそを見て!」です。足が頭の上を越えて、着地するその瞬間までおへそを見続けることができれば、体は自然と小さく丸まり、驚くほどスムーズに回転できます。
3. 最後の一押し「手首の返し」
そして、意外と盲点なのが、回転の後半で起き上がるときの手首の動きです。
ここがうまくいかないと、体は回ったのに鉄棒の上で「布団干し」の状態になって止まってしまい、最後に戻れずに落ちてしまう…という惜しい失敗に繋がります。
鉄棒を握るとき、最初は手首が鉄棒の下にあります。しかし、体が持ち上がって鉄棒の上に移動するとき、手首をクルッと返して、鉄棒の上に乗せる必要があります。これを専門的には「リストシフト」と呼びます。
バイクのアクセルを「ブンブン!」とふかす動きをイメージしてください。回転の頂点付近で、このアクセルをふかすように手首をクイッと返すと、上体がスムーズに起き上がり、ピタリとツバメのポーズ(支持姿勢)で止まることができます!
【成功のための3つのチェックポイント】
- キック:空(天井)に向かってオーバーヘッドキック!
- 目線:最後までおへそをロックオン!
- 手首:頂点でバイクのアクセルを「ブンッ」!
補助板や室内鉄棒の効果的活用

「気合でなんとかしなさい!」という精神論だけでは、現代っ子の運動能力を伸ばすことは難しい時代です。
最短距離で成功を掴むためには、便利な道具や環境を賢く利用する戦略(環境設定)が非常に重要になります。
1. 補助板(キック板)は「物理法則」のブースター
小学校でよく見かける、あの坂道の形をした板。これは単なる踏み台ではありません。物理学における「エネルギー保存の法則」を応用した、非常に優れた加速装置です。

通常、地面から逆上がりをする場合、静止状態から一気に自分の体重を持ち上げるだけの瞬発力(パワー)が必要になります。しかし、補助板を使うことで以下の2つの大きなメリットが生まれます。
- 運動エネルギーの変換:助走でつけた「水平方向のスピード」を、坂道の角度によってスムーズに「垂直方向の上昇力」に変えることができます。
- 位置エネルギーの加算:平地よりも高い位置に足を置けるため、スタート時点ですでに重心が高くなり、持ち上げる距離を物理的に短縮できます。
使い方のコツは、最初は高い位置(急な角度)からスタートし、成功するごとに少しずつ低い位置(平地に近い角度)へと足を置く場所を変えていくことです。これにより、体は「回る感覚」を忘れないまま、徐々に自力での回転へと移行していくことができます。
2. 室内鉄棒が生み出す「分散学習効果」
「週に1回、体操教室で1時間みっちり練習する子」と、「毎日お風呂上がりに5分だけ自宅で練習する子」、 どちらが早く上達すると思いますか?
脳科学の視点から見ると、後者の方が有利な場合があります。
運動神経(シナプス)の結合を強めるには、一度に大量の負荷をかける「集中学習」よりも、少しずつでも頻度を高くする「分散学習」の方が効果が高いことが示唆されているからです。
家庭用の室内鉄棒があれば、雨の日でも、夜でも、パジャマのままでも練習が可能です。「CMの間だけやってみよう」「宿題が終わったら3回だけ回ろう」といったハードルの低い練習を日常に組み込むことで、鉄棒への恐怖心は消え、動きが無意識化(自動化)されていきます。
これは、ゴールデンエイジのお子さんにとって、お金には代えられない強烈なアドバンテージになります。
とはいえ、「部屋に置く場所がない」「安全性が心配」という方も多いと思います。選ぶ際は、耐荷重がしっかりしていて(大人がぶら下がっても大丈夫なもの)、使わない時は布団のように折りたためるタイプがおすすめです。
「習い事の月謝1ヶ月分」程度の投資で、雨の日もパジャマのままでも練習できる環境が手に入ると考えれば、決して高い買い物ではありません。
▼【SGマーク取得・耐荷重100kg】我が家のリビングが体操教室に!折りたたみ鉄棒
3. 安全な「補助ベルト」の活用
もう一つ、家庭での練習で役立つのが「鉄棒補助ベルト」です。 タオル練習の進化版とも言えますが、スポーツ用品メーカーから発売されている専用のベルトは、伸縮性や強度が計算されており、より安全に実際の回転に近い感覚を養うことができます。
※注意: インターネット上には「100均の荷造りゴム」や「自転車の廃チューブ」を代用するDIY情報がありますが、これらは体重を支える設計になっておらず、練習中に切れて落下する危険性が高いため絶対に使用しないでください。大切なお子様の安全のため、必ず「SGマーク」などの安全基準を満たした専用の補助ベルトを使用するか、前述のタオル練習(大人が補助)を行うようにしてください。
正規品の補助ベルトは、子供の体重を支えるための特殊な設計がされており、切れにくい素材で作られています。「万が一の事故」を防ぐための保険だと考えれば、ここだけは正規品を使うことを強くおすすめします。
▼【学校採用モデル】クルッと回れる!逆上がり専用補助ベルト
室内鉄棒の下には必ずマットや布団を敷き、安全対策を万全にしましょう。また、補助板がない場合は、タオル練習を併用することで、擬似的に「遠心力」を体感させることができます!
子供を伸ばす親の教え方の鍵

逆上がりの練習において、親御さんが果たすべき最大の役割。それは「技術的なコーチ」になることではなく、「最強のメンタルサポーター(安全基地)」になることです。
我が子が何度も失敗する姿を見ていると、つい「もっと強く蹴って!」「なんで腕が伸びちゃうの!」と熱くなってしまう気持ち、痛いほどよく分かります。
しかし、逆上がりは「できた・できない」という結果が残酷なほどハッキリと目に見える運動です。そのため、子供は私たちが想像している以上に「できない自分」に対して傷つき、自尊心をすり減らしていることがあります。
「なんでできないの?」は禁句
まず、絶対に避けていただきたいのが、叱責や感情的なプレッシャーです。 「さっきはできたじゃない!」「やる気あるの?」といった言葉を投げかけられると、子供の脳は「攻撃された」と認識し、防衛本能を作動させます。
すると、体は無意識にキュッと硬直し、筋肉がこわばってしまいます。逆上がりは、リラックスして遠心力を利用する運動ですから、体が硬直してしまっては、物理的に回るのが難しくなってしまいます。
また、「頑張れ!」という言葉も使い所が重要です。子供は既に頑張っています。「頑張れ」と言われると、「今のままじゃダメだ」と否定されたように感じたり、「具体的に何を頑張ればいいの?」と混乱したりしてしまいます。
結果ではなく「変化」を褒める
では、どう声をかければいいのでしょうか? 正解は、結果(成功・失敗)ではなく、プロセス(動作の小さな変化)に対して具体的なフィードバックを与えることです。
子供が欲しいのは「正解」ではなく、「自分が前に進んでいるという実感」です。例えば、失敗して落ちてしまったとしても、その中から良かった点を見つけて伝えてあげてください。
- 「惜しい!さっきより足が5センチ高く上がってたよ!」
- 「回れなかったけど、肘はずっと曲がってて最高だった!」
- 「地面を蹴る音が『ドン!』って強く聞こえたよ。いい感じ!」
このように、「あなたの努力をちゃんと見ているよ」というメッセージを伝えることで、子供は「失敗したけど、やり方は間違っていないんだ」と安心し、次も挑戦しようという意欲(自己効力感)を持ち続けることができます。
これを心理学では「成長マインドセットを育む関わり」と言います。
「イメージと現実のズレ」を埋める動画活用術
現代の逆上がり練習において非常に有効なツールとなるのが「スマートフォンによる動画撮影」です。
運動が苦手な子の多くは、自分の体の中で起きていること(主観)と、実際の動き(客観)の間に、大きなズレ(乖離)が生じています。
例えば、本人は「足を真上に蹴り上げているつもり」でも、実際には「斜め前に蹴っている」ということが頻繁に起こります。
いくら親が言葉で「もっと上に蹴って!」と言っても、本人にとっては「上に蹴ってるのに!」と反発したくなるだけです。そこで、動画の出番です。 「一回ビデオで見てみようか」と撮影した動画をその場で見せてあげてください。
「あ、自分では上げてるつもりだったけど、全然上がってない…」と、子供自身が自分の目で見て気づくこと(メタ認知)が何より重要です。
【効果的な動画フィードバックの手順】
- 横から撮影する(蹴り上げの角度や腕の伸びがよく分かります)
- 良い点(肘が曲がっている等)を先に褒める
- 「足をもっとこっち(画面上の空)に向けてみようか」と修正点を1つだけ伝える
練習は「笑顔」で終わるのが鉄則
最後に、練習の終わらせ方についても一つアドバイスをしたいと思います。できないまま終わると、どうしても暗い雰囲気になりがちですが、心理学には「ピーク・エンドの法則」というものがあります。
人間は、ある出来事の「絶頂期」と「最後」の印象で、全体の評価を決めるというものです。
つまり、泣きながら練習を終えると、子供の記憶には「逆上がり=辛くて嫌なもの」として刻まれてしまいます。これでは翌日の練習意欲はゼロです。
もしその日に逆上がりが成功しなくても、最後は「前回りができた!」「ぶら下がり競争で勝った!」など、子供が「できた!」「楽しかった!」と感じられる簡単な遊びで締めくくってください。
「今日は楽しかったね、また明日やろう!」と笑顔で終わることこそが、長期的には最短の近道になります!
逆上がりのお悩み解決FAQ
ここで、逆上がりの練習中によくあるお悩みや疑問について、一問一答形式でお答えします!
【Q1:練習を始めてどれくらいでできるようになりますか? 】
A:個人差は大きいですが、毎日5分程度の練習を継続した場合、早い子で1〜2週間、平均的には1〜2ヶ月程度でコツを掴む子が多いです。大切なのは「期間」ではなく、「正しいフォーム」で練習できているかです。焦らずスモールステップで進めましょう。
【Q2:子供が怖がって鉄棒に近づこうとしません。 】
A:無理強いは逆効果です。まずは「鉄棒=楽しい」という記憶に書き換えることから始めましょう。逆上がりでなく、鉄棒にぶら下がってゆらゆらしたり、布団干しのポーズでじゃんけんをしたりする遊びから再開してください。恐怖心が強い場合は、室内鉄棒の下に厚めの布団を敷くなど、心理的な安心感を作るのも効果的です。
【Q3:手が痛いと言って練習を嫌がります。】
A:手のひらの痛み(マメ)は、頑張っている証拠ですが、痛みが強いと集中できません。無理せず軍手をして練習したり、タオルを巻いて握りやすくしたりしてあげてください。痛みが引くまで数日休むのも立派な勇気です。
【Q4:逆さまになると頭がクラクラするようです。 】
A:三半規管がまだ回転に慣れていない可能性があります。無理に続けさせず、すぐに休憩させてください。普段の遊びの中で、前転(でんぐり返し)や横になってゴロゴロ転がる運動を取り入れ、少しずつ三半規管を刺激して慣らしていくのがおすすめです。
逆上がり習得による運動神経の進化
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!
ここまで見てきたように、逆上がりは単なる学校体育の種目の一つではありません。
「できない=運動神経が悪い」と悲観するようなものでもありません。むしろ、「適切な練習を通して、子供の運動神経(コーディネーション能力)を劇的にバージョンアップさせる絶好のチャンス」と捉えるべきです。
重心位置、回転半径、ベクトルの制御といった物理の法則を体で理解し、それを自分の体で表現するプロセスは、まさに「運動のOS」を書き換える作業です。
一度逆上がりができるようになれば、その過程で培われた「体の軸を作る力」や「空間認知能力」、「諦めずに試行錯誤する力」は、かけっこや球技、水泳など、他のあらゆるスポーツにも応用できる汎用的な能力となります。
そして何より、「練習したらできた!」という成功体験は、子供の強烈な自己肯定感(自己効力感)となります。「自分はやればできるんだ」という自信は、勉強や人間関係など、スポーツ以外の分野での挑戦心も後押ししてくれるはずです。
焦る必要はありません。お子さんのペースに合わせて、親子で楽しみながら、この「運動のOSアップデート」の過程を楽しんでみてくださいね。
その先には、きっと一回り大きく成長したお子さんの姿が待っています。心から応援しています!
免責事項:
本記事は、筆者の経験や調査に基づく一般的な情報・考え方の紹介です。
安全確保について: 練習中に痛み・しびれ・強い恐怖で体が固まる・めまい/吐き気が出た場合は直ちに中止してください。床が滑る場所、周囲に家具の角がある環境、十分なマットがない環境では行わず、必ず大人が安全確保(スペース確保・用具固定・転倒時の受け身補助)を行ってください。
健康状態の確認: 具体的なトラブルや体調不良などについては、所属先の相談窓口や専門家への相談も検討してください。特に、心臓・呼吸器・整形外科的な持病や、医師から運動制限を受けているお子様については、必ず事前に小児科・整形外科などの医師に相談した上で練習内容や強度を決めてください。
器具の使用について: 器具(室内鉄棒・踏み台・補助ベルト等)は必ずメーカーの対象年齢/耐荷重/設置条件/使用方法に従ってください。破損やガタつきがある場合は使用しないでください。また、本記事内で触れた「100均ゴム等によるDIY補助具」は危険ですので絶対に使用しないでください。
対象年齢: 本記事は小学生の逆上がり練習を主に想定しています。未就学児は転倒リスクが高いため、回転系は控え、必ず専門指導者のいる環境で練習を行ってください。

