こんにちは!スルースのVictory Academy、運営者の「スルース」です。
毎期の目標設定の時期が来ると憂鬱になったり、時間をかけてシートを作成しても結局は無駄な作業だと感じたりしていませんか?
会社から降りてくる数値目標と現場の実態には乖離があり、目標管理制度そのものが形骸化してしまっているケースは少なくありません。
本来は個人の成長や組織のビジョン達成のためにあるはずの制度が、現場ではやる気なくなる原因になっていたり、評価のための茶番と化していたりするのが現実です。
この記事では、なぜ多くの人が目標管理を意味ないと断じてしまうのか、その背景にある構造的な欠陥や心理的な影響について掘り下げていきます!
- 目標管理制度が現場で機能不全に陥っている構造的な原因
- やる気を奪いメンタル不調を招く心理的なメカニズム
- 評価制度がパワハラや退職勧奨に悪用されるリスク
- 意味のない目標管理に振り回されず前向きに働くための視点
※本記事は、筆者の経験や調査に基づく一般的な情報・考え方の紹介です。具体的なトラブルや体調不良などについては、所属先の相談窓口や専門家への相談も検討してください。
目標管理がくだらないと感じる構造的要因

多くのビジネスパーソンが目標管理制度に対して冷ややかな視線を送っているのには、単なる「怠慢」や「意識の低さ」では片付けられない明確な理由があります。
ここでは、制度設計そのものが抱える矛盾や、現場の実態と合わなくなっている構造的な背景について詳しく見ていきましょう!
目標管理は意味ないと断じる現場の本音

今、Googleの検索窓に「目標管理」と入力すると、サジェスト機能(予測変換)には驚くべき言葉が並びます。「くだらない」「意味ない」「時間の無駄」「やる気なくなる」……。これらは単なる一部の怠惰な社員の愚痴でしょうか?
いいえ、そうは思いません。このネガティブな検索ワードの羅列は、経営層が会議室で描いた「理想的な制度」と、実際に現場で泥臭く運用されている「実態」との間に、もはや修復不可能なほどの深い断絶(アポリア)が生じていることの証明に他ならないからです。
ドラッカーの意図とズレた「自律」から「強制」への変質
皮肉なことに、目標管理制度(MBO:Management By Objectives)の生みの親であるピーター・ドラッカーが本来意図していたものは、現在の日本企業で行われている運用とは真逆のものでした。
ドラッカーが目指していたMBOの本来の姿については、GLOBISの解説記事やSmartHRによるMBOの原理原則の整理も参考になります。
彼が著書『現代の経営』で提唱したのは、上司が細かく命令して部下を動かすのではなく、従業員が自ら目標を設定し、自らプロセスを管理する「自己統制(セルフコントロール)」の重要性です。
つまり、本来のMBOは「人間は信頼に足る存在であり、自分の意思で決めた目標に対しては最大の責任と情熱を持って取り組むはずだ」という、性善説に基づいた人間尊重の哲学だったのです。しかし、2020年代の日本の現場を見渡してみてください。
「自律」などという美しい言葉はどこへやら、実際に行われているのはガチガチに縛られた「他律」そのものです。
- 会社から降りてきた数値をそのまま書き写すだけの「目標設定」
- プロセスを無視し、結果の数字だけを詰められる「管理面談」
- 個人の創意工夫よりも、マニュアル通りの行動を強いる「マイクロマネジメント」
このように、哲学を失い「ノルマを強制するための管理ツール」になり下がった制度に対して、現場の人間が「くだらない」と感じるのは、ある意味で非常に健全な反応だと言えるのではないでしょうか。
「どうせ評価は決まっている」という冷めた視線
さらに現場の「しらけムード」に拍車をかけているのが、評価の不透明さと相対評価(分布規制)の存在です。
多くの従業員は、この制度が自分たちの成長のためではなく、会社が従業員をランク付けし、限られた人件費(昇給原資・ボーナス)を配分するための「ドライな配分ロジック」として機能していると感じている人も少なくありません。
「どんなに高い目標を達成しても、部門の業績が悪ければ評価されない」「S評価の枠はすでに先輩に決まっているらしい」といった噂や実体験が、現場の空気を重くしています。「書いても書かなくても、どうせ給料は大して変わらない」。
そんな諦めにも似た感情が職場を覆う中で、何時間もかけて目標管理シートを作成させられる苦痛は計り知れません。
現場の従業員たちは馬鹿ではありません。制度の裏側にある「大人の事情」を見抜いているからこそ、「意味ない」と断じて心のシャッターを下ろし、静かに情熱を失っていくのです。
本来は「自律」と「モチベーション」を高めるはずの仕組みが、運用方法の誤りによって、逆に組織への冷めた感情を生み出す「無意味な儀式」へと変質してしまっています。
トップダウンの目標設定でやる気なくなる

目標管理(MBO)の教科書的な定義では、従業員自身が目標を設定し、そのプロセスに関与することが最大のメリットであるとされています。
しかし、多くの日本企業の現場において、この原則は完全に逆転してしまっています。いわゆる「上意下達(トップダウン)」による目標の押し付けが、働く人々のやる気を削ぐ最大の要因となっているのです。
「カスケードダウン」が招く思考停止
通常、企業の目標設定は「カスケードダウン」という手法で行われます。経営目標が決定され、それが事業部、部、課へとブレイクダウンされ、最終的に個人の目標として割り振られる流れです。
組織としての一貫性を保つ(アライメント)という意味では論理的ですが、問題はその運用があまりにも一方的かつ機械的であることです。
現場レベルに降りてくる頃には、目標はすでにガチガチに固められた「決定事項」となっており、個人の意思やアイデアを挟む余地は1ミリも残されていません。
「上から勝手に決められたノルマ」を、さも自分が考えたかのように目標シートに転記する作業。
ここで発生するのは、仕事に対する当事者意識(オーナーシップ)の欠如です。「どうせ上が決めたことだから」という思考停止が常態化し、仕事が「自分事」から苦痛な「やらされ仕事」へと変質してしまうのです。
心理学が証明する「やらされ感」の正体
なぜトップダウンの強制はこれほどまでに人のやる気を奪うのでしょうか。これは心理学の「自己決定理論(Self-Determination Theory)」によって明確に説明できます。
人間には生まれつき、「自分の行動は自分で決めたい」という自律性への欲求が備わっています。
人は、自分で選択し決定したことに対しては強い責任感と意欲を持ちますが、他人からコントロールされたと感じた瞬間、その意欲は急速に失われ、反発すら覚えるようにできているのです。
「現場の実情を無視した無茶な数字だ」と感じながら、納得感のないままハンコを押さざるを得ない状況は、この自律性の欲求を真正面から踏みにじる行為であり、モチベーションが枯渇するのは生物として当然の反応と言えます。
最悪の茶番劇:「上司の正解探しゲーム」
さらに現場を疲弊させているのが、形式上は「本人との合意」を装うために行われる、歪んだ目標設定面談です。
上司は「来期の目標は君自身で考えなさい」と部下に自律的な提案を求めます。しかし、いざ部下が考えた目標を提出すると、「ちょっと違うな」「もっと視座を高く」などと却下され、何度書き直しても承認されません。
結局、何往復もした挙句に設定されるのは、最初から上司の腹積もりにあった数字そのものです。
これは対話ではなく、単なる「誘導尋問」であり、部下にとっては「上司の頭の中にある正解を当てるだけのクイズ」に他なりません。「最初からその数字を言えばいいじゃないか」という徒労感と、「自分で決めたことにさせられた」という欺瞞への怒りです。
このダブルバインド(二重拘束)的なコミュニケーションこそが、上司への不信感を決定的なものにし、従業員の主体性を根こそぎ奪い去っているのです。
ノルマの割り当てに変質する目標の弊害

組織のビジョンや方向性が、個人の業務レベルまで翻訳されずに、文脈を削ぎ落とされた単なる「数字」だけがドスンと降りてくる。残念ながら、これが多くの現場で起きている目標管理の実態ではないでしょうか。
これはもはや、目標によるマネジメント(MBO)ではなく、単なる「ノルマ管理ツール」としての誤用と言わざるを得ません。
「Why(なぜ)」が共有されない苦痛
「前期比110%アップ」「コスト5%削減」。
こうした数字が降りてきたとき、私たちが知りたいのは「どのくらいやるか(How much)」だけではありません。それ以上に、「なぜそれをやる必要があるのか(Why)」という理由こそが重要です。
しかし、現場の上司からは「会社が決めたことだから」「競合も伸びているから」といった、思考停止した答えしか返ってこないことが多々あります。
「この数字を達成することで、誰がどう幸せになるのか」「社会に対してどんな価値を提供できるのか」という文脈(コンテキスト)が共有されないまま、ただゴールテープを切ることだけを強要される。この「納得感の欠如」こそが、従業員の心から熱意を奪い去る最大の要因です。
自分が走っている方向が正しいのかどうかも分からず、ただ「走れ」とムチ打たれる競走馬のような気分では、高いパフォーマンスなど発揮できるはずもありません。
現代版「3人のレンガ職人」の悲劇
ビジネスの世界でよく語られる「3人のレンガ職人」という寓話をご存知でしょうか?旅人が建築現場で働いている3人の職人に「何をしているのか」と尋ねる話です。
- 1人目の職人:「見ればわかるだろ、レンガを積んでいるんだ(作業)」
- 2人目の職人:「家族を養うために金を稼いでいるんだ(生活手段)」
- 3人目の職人:「歴史に残る大聖堂を造っているんだ(目的・使命)」
当然、最もモチベーション高く、良い仕事をするのは3人目です。しかし、現代の目標管理制度は、悲しいことに従業員を無理やり「1人目の職人(ただレンガを積む人)」に押し込めてしまっています。
経営層や管理職が「大聖堂(ビジョン)」を語ることを放棄し、「とにかく今日中にあと100個積め」と数字だけを管理する。これでは、従業員は自分の仕事に誇りを持つことができません。
「売上110%アップ」という無機質な数字の向こう側にあるはずの、顧客の笑顔や社会への貢献が見えなければ、日々の業務は単なる「苦役」や「作業」へと成り下がってしまいます。
「意味の喪失」が招くエンゲージメントの崩壊
人間は、単に金銭のためだけに働く経済合理的な機械ではありません。「自分の仕事には意味がある」「自分は誰かの役に立っている」と感じられること、つまり「有意味感」こそが、困難な仕事に立ち向かうための精神的エネルギー源です。
目標管理がノルマの割り当てに変質し、この「有意味感」が損なわれると、プロフェッショナルとしての自尊心は深く傷つきます。
「自分は組織の歯車に過ぎないのか」「代わりはいくらでもいるのか」という虚無感は、組織への帰属意識(エンゲージメント)を急速に冷却させます。
優秀な人材ほど、「ここでは自分の価値を発揮できない」「自分の人生を無駄にしている」と見切りをつけるのが早いため、結果として組織には「言われたことだけをやる」受動的な人材だけが残るという悪循環に陥ります。
管理のための作業が時間の無駄になる

目標管理制度を真面目に運用しようとすればするほど、驚くほど膨大な時間が吸い取られていく。この事実に気づいたとき、多くのビジネスパーソンは虚無感に襲われます。
期初の目標設定面談、目標シートの作成と修正、中間レビュー、期末の自己評価記入、評価者会議、フィードバック面談……。この一連のサイクルは、まるで宗教儀式のように毎年繰り返されますが、その労力に見合うリターンを感じている人はどれだけいるでしょうか。
成果を出す時間を奪う「本末転倒」のパラドックス
現場からは悲痛な叫びが聞こえてきます。「このシートを書くのに費やした3時間を営業活動に使えば、あと1件アポが取れたのに」「顧客からのクレーム対応が山積みなのに、社内システムへの入力期限に追われている」。
これは笑い話ではありません。本来、目標管理は「より高い成果を出すための支援ツール」であるはずです。
しかし現実には、そのツールを維持・運用するための作業そのものが、成果を出すための貴重な業務時間を侵食しているという、完全なパラドックス(逆説)に陥っています。
忙しい現場のスタッフが、顧客の方を向くのではなく、パソコンの画面(評価シート)に向かって何時間も格闘している姿は、経営資源の無駄遣い以外の何物でもありません。
複雑怪奇なシステムと「管理のための管理」
特に問題なのが、人事部門や経営企画部門による「管理の精緻化」です。公平性を担保したい、データを一元管理したいという意図は理解できますが、その結果として導入される評価システムや入力フォームは、年々複雑怪奇になっています。
- 評価項目の定義が細かすぎて、どれを選べばいいか分からない。
- システムに入力する際、全角・半角の指定や文字数制限などで何度もエラーが出る。
- 上司の承認フローが複雑で、修正のたびに差し戻しが発生する。
現場にとっては、こうした作業は「一円の利益も生まないコスト」です。
業務の本質とは無関係な事務作業に精神力を削がれ、「業務が忙しすぎて疲れる」ことがモチベーション低下の要因となっている現状において、この「管理のための管理」は、従業員の疲労感を増幅させる有害な負担となっています。
実務能力より「作文能力」が評価される理不尽
そして、この「時間の無駄」感を決定的なものにするのが、評価における「作文コンテスト」化です。
目標管理シートの完成度が評価に直結する仕組みの下では、実務能力は高いけれど文章を書くのが苦手な「職人肌」の社員が冷遇されがちです。
一方で、実務は大したことがなくても、耳障りの良いビジネス用語(「イノベーション」「シナジー」「最適化」など)を並べて、論理的に見える美しい目標シートを書くのが得意な「口だけ社員」が高く評価されるという現象が起きます。
現場で汗をかいて成果を出している人が、「シートの書き方が悪い」という理由だけで評価されず、デスクで立派な作文を作っていた人が出世していく。この「本末転倒」な理不尽を目の当たりにしたとき、まともな神経を持った従業員なら「こんな制度につきあってられるか」と白けてしまうのは当然のことでしょう。
「目標管理にかける時間」が「目標達成のための行動時間」を奪っているなら、その制度は即座に見直すべきです。ツールに使われて疲弊するのではなく、ツールを使いこなす(あるいは捨てる)勇気が必要です。
時代遅れの制度が現場を疲弊させる

現代のビジネス環境は「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)」の時代と呼ばれ、市場の状況や顧客のニーズは数ヶ月、時には数週間単位で激変します。
しかし、多くの日本企業で採用されている伝統的な目標管理(MBO)は、半年や1年という固定的なサイクルで運用されることが一般的です。
このスピード感のズレは、現場に深刻な歪みをもたらします。
例えば、「期初に立てた目標が、3ヶ月後には既に市場の変化で意味をなさなくなっている」という事態が頻発します。本来なら、状況に合わせて目標を柔軟に修正し、リソースを再配分すべきです。
しかし、硬直的な制度の下では「一度決めた目標は変えられない」というルールが優先されがちです。その結果、ビジネス上の優先順位が変わっているにもかかわらず、制度上は半年前の古い目標を追い続けなければならない、あるいは評価のために修正できないという事態に陥ります。
「今は別のプロジェクトが最優先だが、評価のために古い目標もやらなければならない」というダブルバインド(二重拘束)は、現場にとって大きなストレスです。
変化に柔軟に対応して価値を生み出すことよりも、過去の約束を守ることが評価される仕組み。これはまるで、天気が変わって雨が降ってきているのに、「今日は晴れの予報だったから傘はささない」と言っているようなものです。
今の時代にそぐわないこの硬直性が、企業の競争力を削ぐだけでなく、従業員の「正しい仕事をしたい」という職業的良心を傷つけ、疲弊させていると言わざるを得ません。
目標管理がくだらないだけで済まない悪影響

ここまで、目標管理が「くだらない」と感じられる理由を見てきましたが、問題は単に「面倒くさい」で済む話ではありません。機能不全に陥った目標管理制度は、従業員のメンタルや倫理観を蝕み、さらにはキャリアそのものに深刻なダメージを与える危険な側面を持っています。ここでは、制度が生み出す「闇」の部分に焦点を当てていきます。
評価のために嘘の報告が蔓延するリスク

評価のために嘘の報告が蔓延するリスク
目標管理制度が機能不全に陥った組織で最も恐ろしいのは、従業員が自分の身を守るために「嘘」をつくことが、合理的な生存戦略になってしまうことです。
「絶対に達成しなければならない(必達)」という過度なプレッシャーや、失敗を一切許容しない減点主義の組織文化の中では、正直に現状を報告することは自殺行為に等しくなります。
その結果、組織全体が「小さな嘘」と「隠蔽」の温床と化してしまうのです。
正直者が馬鹿を見る「サンドバッグ」の常態化
目標設定の段階から、すでに心理戦は始まっています。皆さんは「サンドバッグ(Sandbagging)」という言葉をご存知でしょうか?
これは、自分の実力なら100できるところを、あえて「80やります」と低く申告し、確実に達成してA評価を得ようとするテクニックのことです。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。それは、多くの日本企業の評価制度に「ラチェット効果(歯止め効果)」が働いているからです。
もし今年、全力で頑張って120%の成果を出したとします。すると会社は「君ならもっとできる」と判断し、翌年の目標を今年の120%を基準に設定してきます。つまり、頑張れば頑張るほど、来年の自分が苦しくなるという構造になっているのです。
この「成果の呪縛」を避けるために、従業員はあえて余裕を残した「低めの目標」を設定し、それを「非常に困難な目標です」と上司にプレゼンする演技力を磨くことになります。
進捗報告における「グリーンシフト」現象
期中の進捗報告でも、実態とは異なる報告が横行します。プロジェクトマネジメントの世界では「グリーンシフト」と呼ばれる現象ですが、本当は状況が赤信号(危険)や黄色信号(注意)であるにもかかわらず、上司の叱責を恐れて「すべて順調です(緑信号)」と虚偽の報告をしてしまうのです。
特に、「バッドニュース・ファースト(悪い知らせほど早く)」という標語を掲げている会社に限って、実際に悪い報告を上げると「なぜそんなことになるまで放っておいたんだ!」「気合が足りないんじゃないか」と精神的に吊るし上げられることがあります。
こうした経験をした従業員は学習します。「余計なことは言わず、期末ギリギリまで隠しておこう」と。これは従業員の誠実さの問題ではなく、「正直な報告が処罰される」という組織のシステムエラーが生み出した必然的な防衛反応なのです。
数字の辻褄合わせが生むコンプライアンス危機
さらに深刻なのが、期末の数字合わせです。目標未達が確定しそうになると、評価を下げたくない一心で、グレーゾーン、あるいは完全にブラックな手法に手を染めるリスクが高まります。
- 押し込み販売(チャネル・スタッフィング): 顧客にお願いして、来期に必要な商品を無理やり今期中に納品させてもらう。
- 費用の繰り延べ: 今期計上すべき経費をわざと翌期に回して、見かけ上の利益を捻出する。
- 品質データの改ざん: 製造現場などで、歩留まり率や不良品率の目標を達成するために、検査データを操作する。
これらは一歩間違えれば粉飾決算や不正会計につながる重大な問題ですが、現場の感覚としては「評価のためにちょっと数字をいじっただけ」という軽い認識で始まります。
しかし、こうした「相互欺瞞(お互いに嘘をついていることを知りながら黙認すること)」が組織文化として定着してしまうと、経営層には正確な情報が一切上がらなくなります。経営者は裸の王様となり、誤ったデータに基づいて経営判断を下すことになります。
結果として、企業全体のコンプライアンスリスクを極限まで高め、組織の寿命そのものを縮めることにつながるのです。
注意点:
組織内で「バッドニュース(悪い報告)」が上がってこない場合、それは問題がないのではなく、問題を隠す文化が定着している危険信号かもしれません。静かすぎる組織ほど、水面下で深刻な病理が進行している可能性があります。
目標未達を理由にしたパワハラの温床

非常に深刻かつデリケートな問題として、目標管理がリストラや退職勧奨の道具として悪用されるケースがあります。
日本の労働法では簡単に従業員を解雇することができないため、企業側が「辞めてほしい」従業員に対して、目標管理制度(特にPIP:業務改善計画)を使って精神的な圧力をかけ、自主退職に追い込む手法が取られることがあります。
具体的な手口としては、まずターゲットとした従業員に対し、通常の業務量や能力を大幅に超える、到底達成不可能な高い目標(過大なノルマ)を設定します。当然、目標は未達となります。
すると、それを理由に連日のように別室に呼び出し、「なぜできないのか」「やる気がないんじゃないか」「給料泥棒だ」と長時間にわたる指導(という名の叱責)を繰り返すのです。
これは実質的なパワーハラスメントですが、形式上は「業務指導」の体をなしているため、表面化しにくいという特徴があります。
否定され続けることで、従業員は「自分はダメな人間だ」と自信を喪失し、精神的に追い詰められていきます。
そして最終的に、「この仕事に向いていないのではないか」「他で活躍したほうがいい」と退職を促され、逃げるように会社を去ることになります。
目標管理制度が、人材育成ではなく、合法的に人を排除するための「証拠作り」に使われている側面があることには、働く側として十分に警戒する必要があります。
PIP(業務改善計画)が退職勧奨や解雇の前段として使われることへの懸念や、実際にそのような場面に置かれたときの対応策については、労働問題に詳しい弁護士による解説記事も参考になります。
事務職は定量化できず書き方に迷走する

事務職は定量化できず書き方に迷走する
営業職のように売上や成約件数といった明確な数字で成果が見える職種とは異なり、総務、人事、経理などの事務職や、企画職などのバックオフィス部門の方々にとって、目標管理は苦痛以外の何物でもないことが多いものです。
なぜなら、多くの会社が導入している目標管理制度が、業務の性質を無視して「成果の定量化(数値化)」を過度に要求するからです。
「数字にならない価値」が切り捨てられる悲劇
会社側は、評価の公平性を担保するため、あるいは管理をしやすくするために、「とにかく数字で目標を立てろ」と迫ります。
しかし、バックオフィスの業務の本質的な価値は、むしろ数字に表れない部分にこそ宿っています。
- 正確性: 給与計算や契約書作成において、ミスがないこと(ゼロであること)。
- ホスピタリティ: 来客への丁寧な対応や、社員が気持ちよく働ける環境づくり。
- 防衛機能: 突発的なトラブルへの迅速な対応や、法改正への適応によるリスク回避。
これらは「できて当たり前」と見なされがちですが、組織にとっては酸素のように不可欠な要素です。しかし、目標管理シートというフィルターを通すと、これらの価値は「数値化できない」という理由だけで評価対象から外されてしまいます。
結果として、本当に重要な業務よりも、「何かを数値化できる些末な業務」が優先されるという本末転倒な事態が起きるのです。
「削減」と「効率化」の無限ループ地獄
数値化の圧力を受けた事務職がたどり着くのが、「削減」と「効率化」の目標です。
「入力作業の工数を月10時間削減する」「消耗品コストを前年比5%削減する」といった目標が典型例です。
もちろん、無駄をなくすことは大切です。しかし、真面目に業務改善に取り組んできた現場であればあるほど、「これ以上、削るところなんてない」というのが本音ではないでしょうか。
乾いた雑巾をさらに絞るような目標設定を強いられた結果、無理やり削減幅を捻出したり、必要なコストまで削って業務品質を落としたりするケースも散見されます。
あるいは、「削減できました」という体裁を整えるために、実態を伴わない数字を並べる「鉛筆なめなめ」のスキルだけが上達していくことになります。
「維持」が評価されないジレンマ:
事務職の最大の成果は「マイナスを出さない(平穏無事な状態を維持する)」ことである場合が多いですが、MBOは基本的に「プラスの変化(改善・変革)」しか評価しません。「何事もなく1年が終わった」という最高の成果が、「何もチャレンジしなかった」と低評価される理不尽さがここにあります。
評価されるのは「仕事ができる人」より「作文がうまい人」
数値化を諦めて「定性目標」を設定する場合も、別の地獄が待っています。例えば「業務マニュアルを作成し、チームの標準化を図る」といった目標です。
ここで問題になるのが、「評価基準の曖昧さ」です。数値という絶対的な物差しがないため、達成度の判定は評価者(上司)の主観に完全に委ねられます。
どれだけ素晴らしいマニュアルを作っても、上司が興味を持っていなければ「ふーん、で?」で終わりますし、逆に大した内容でなくとも、上司の覚えがめでたければ「よくやった!」と絶賛されることもあります。
こうなると、従業員は「本来の業務改善」よりも、「いかに評価シート上で凄そうに見せるか」という「作文技術」や、上司の好みに合わせた目標設定を行う「忖度スキル」を磨くことにエネルギーを注ぐようになります。「どう書けば評価されるのか」に迷走し、本来の業務がおろそかになるようでは、一体何のための制度なのかわかりません。
数値化できない定性目標は、最終的には「上司の機嫌」や「人間関係」で評価が左右されやすく、不公平感を生む最大の温床になりがちです。
メンタル不調や辞めたい気持ちを招く

目標管理制度の最大の罪は、それが単に業務効率を落とすだけでなく、働く人々の心(メンタル)を確実に蝕んでいく点にあります。
高すぎる目標や、どれだけ頑張っても報われない評価に長期間さらされ続けると、人の心はタイヤのように徐々に、しかし確実に摩耗していきます。そしてある日突然、プツンと何かが切れてしまうのです。
「何をしても無駄だ」という学習性無力感の恐怖
皆さんは「学習性無力感(Learned Helplessness)」という心理学の言葉を聞いたことがありますか?
これは、抵抗できないストレスを与えられ続けた人間(や動物)が、「何をしても結果は変わらない」と学習してしまい、最終的には逃げ出すことすら諦めて無気力になってしまう状態を指します。
現在の目標管理の現場で起きているのは、まさにこれです。「前期比120%」という到底不可能な数字を押し付けられ、必死に努力しても未達に終わり、評価面談で「未達だからC評価ね」と冷たく告げられる。
この理不尽な経験が何度も積み重なると、脳は「努力と結果には何の関係もない」と認識してしまいます。その結果、「どうせ無理だ」「頑張るだけ無駄だ」という深い諦めの境地に達し、新しい仕事に挑戦する意欲も、現状を変えようとする気力もすべて奪われてしまうのです。
真面目な人ほど陥る「自責の罠」とバーンアウト
特に危険なのは、責任感が強く、真面目な人ほどこの罠にハマりやすいという事実です。適当に手を抜ける人は「会社が悪い」「上司が無能だ」と割り切って自分を守ることができます。
しかし、真面目な人は、制度自体に欠陥がある場合でも「目標が達成できないのは、自分の能力が低いせいだ」「もっと努力しなければならなかった」と、すべてを自分の責任として背負い込んでしまいます。
このように過剰な自責の念(自分を責める気持ち)を持ち続けた結果、自分の能力に対する信頼感である「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」が粉々に破壊されてしまいます。
そして、心身のエネルギーが枯渇し、ある朝突然会社に行けなくなる「燃え尽き症候群(バーンアウト)」や、うつ病などの深刻なメンタルヘルス不調を引き起こしてしまうのです。
心の危険信号:
「朝、会社に行くのが辛い」「日曜日の夜に涙が出る」「以前楽しめていた趣味が楽しくない」といった症状がある場合、それは甘えではなく、心が限界を訴えているサインです。目標達成よりも、自分を守ることを最優先に考えてください。
納得感のなさが引き起こす「静かな退職」
人が会社を辞めたいと思うのは、給料が低いからだけではありません。「自分の仕事が正当に評価されていない」という納得感の欠如こそが、働く意欲を奪う決定打となります。
実際、公的な調査でもこの相関関係は明らかになっています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の報告によれば、成果主義的な評価制度において、評価結果への納得性が低い場合、勤労意欲の低下や、組織への不信感につながるリスクが高いことが示唆されています(出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構『働く人からみた成果主義』)。
納得感のないまま働き続けることは、精神的な拷問を受けているのと同じです。
最近では、実際に退職届を出さずとも、心の中ではすでに会社に見切りをつけ、必要最低限の仕事しかしなくなる「静かな退職(Quiet Quitting)」という現象も話題になっています。
もしあなたが今、「もう会社を辞めたい」という極限状態まで追い込まれているなら、それはあなたが弱いからではありません。「このままでは自分が壊れてしまうかもしれない」という、生き延びるための自然な危機感が働いている可能性があります。
まとめ|目標管理がくだらないと思う状況からの脱却
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ここまで見てきたように、既存の目標管理制度(MBO)には、現代のビジネス環境や人間の心理において多くの限界があります。これを受けて、グローバル企業や先進的な日本企業を中心に、従来のMBOを見直し、「脱・目標管理」へと舵を切る動きも加速しています。
その代表的なものが、ランク付けによる相対評価を廃止する「ノーレイティング」や、野心的な目標設定を推奨し報酬とは切り離して考える「OKR(Objectives and Key Results)」といった新しい手法です。
OKRの基本的な考え方や、従来型MBOとの違いについては、NECソリューションイノベータによる解説記事や、国内企業のOKR導入事例をまとめた記事も参考になります。
これらに共通しているのは、半年に一度の形式的な面談で通知表を渡すのではなく、上司と部下が頻繁(週1回や月1回)に対話を行う「1on1ミーティング」を重視している点です。
評価のためではなく、成長と課題解決のためにリアルタイムでフィードバックし合う関係性へのシフトが起きています。
| 従来のMBO | 新しい潮流(OKR等) |
|---|---|
| 給与・賞与の査定が主目的 | 企業のビジョン達成と個人の成長が主目的 |
| 年1回〜半年に1回の面談 | 高頻度(週1〜月1)の対話・1on1 |
| 100%達成が求められる(必達) | 60〜70%達成でも良しとする(挑戦重視) |
| 失敗を避ける・低めの目標設定 | 失敗を恐れない・野心的な目標設定 |
もしあなたが今の職場で「目標管理がくだらない」と苦しんでいるなら、それはあなたの能力不足のせいではなく、制度そのものの機能不全が原因である可能性が高いです。
会社が変わるのを待つのも一つの手ですが、組織文化はそう簡単には変わりません。まずは自分自身のメンタルを守るために、「これは給与をもらうための事務手続きだ」と割り切って対応するスキルを身につけること。
そして、もし可能なら、より現代的で人を大切にする評価制度を持ち、あなたの強みを正当に評価してくれる環境へと目を向けることも、キャリアを考える上で重要な選択肢の一つかなと思います。
あなたの価値は、理不尽な評価シートの数字だけで決まるものでは決してありません。
参考リンク:
誤解されたドラッカーの目標管理、その本質を探る(GLOBIS 知見録)
https://globis.jp/article/58049/
MBOで見落とされる「Self-control」。自律で成り立つ真の目標管理(SmartHR mag)。
https://mag.smarthr.jp/hr-management/evaluation/mbo_genrigensoku/
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「働く人からみた成果主義」
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2006/09/pdf/069-083.pdf
OKRとは?意味やKPIとの違い、具体例、企業事例などを解説(NECソリューションイノベータ)
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20230310_okr.html
企業のOKR導入例を5つ紹介(Scale Cloud)
https://scalecloud.jp/blog/kpi/okr-introduction-example/
外資で利用されるPIPは解雇のサイン?退職勧奨への対応方法を弁護士が解説(ベリーベスト法律事務所)
https://www.vbest.jp/roudoumondai/columns/961/
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ハラスメントや働き方、メンタルヘルスに関わる問題は、個々の事情によって適切な対応が大きく異なります。本記事の内容を参考にされる場合でも、最終的なご判断は読者ご自身の責任で行っていただき、必要に応じて、所属組織の相談窓口、人事部門、労働組合、産業医、弁護士、医療・相談機関などの専門家へご相談ください。
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緊急時:
生命・安全に関わる切迫した状況では直ちに 119(消防・救急)/110(警察)/118(海上保安) へ。
救急要否の相談:
地域の #7119(救急安心センター等) に相談(対応は自治体により異なります)。
主な相談窓口(例):
こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(公的窓口へ接続)
よりそいホットライン:0120-279-338(多言語対応時間あり)
TELL Lifeline:0800-300-8355/03-5774-0992(英語対応)
※電話番号・受付時間は変更される場合があります。最新情報は各公式サイト等でご確認ください。

