こんにちは!スルースのVictory Academy、運営者の「スルース」です。
最近、テレビやネットのニュースでもスポーツ指導のあり方が話題になることが増えましたね。指導者を目指している方や、お子さんのチーム選びに悩んでいる保護者の方の中には、コーチングとはスポーツにおいて具体的にどういう意味を持つのか、疑問に感じている方も多いのではないでしょうか?
また、ティーチングとの違いや、資格取得の方法についても気になるところですよね。
この記事では、コーチングの基礎知識から実践的なスキルまで、わかりやすく解説していきます。
- コーチングの本来の意味やティーチングとの明確な違い
- 選手のモチベーションを高めるための心理的な仕組み
- 日本における指導者資格の種類やコーチの仕事の現実
- 現場で起こりやすい課題や保護者との関わり方のコツ
※本記事は、筆者の経験や調査に基づく一般的な情報・考え方の紹介です。具体的なトラブルや体調不良などについては、所属先の相談窓口や専門家への相談も検討してください。
スポーツのコーチングとは?定義や歴史を解説

まずは、私たちが普段何気なく使っている「コーチ」という言葉のルーツや、本来の役割について深掘りしていきましょう。言葉の成り立ちを知ることで、指導者としての立ち位置や、選手との向き合い方がガラッと変わるかもしれませんよ!
コーチングの語源と本来の意味

皆さんは「コーチ(Coach)」という言葉が、元々はスポーツ用語ではなかったことをご存じでしょうか?
そのルーツは15世紀のハンガリーにまで遡ります。当時、ハンガリーの北西部に 「コチ(Kocs)」という小さな村 がありました。
この村で作られた四輪馬車は、当時としては先進的なサスペンション機構を備えていたとされ、その乗り心地の良さからヨーロッパ各地の王侯貴族に広まったと言われています。
この「コチ村の馬車」が評判となり、やがて「コチ(Kocs)」という言葉自体が「馬車」を指すようになり、それが英語の「コーチ(Coach)」へと変化していきました。
では、なぜ馬車が指導者を意味するようになったのでしょうか?ここにコーチングの本質が隠されています。
馬車の役割を想像してみてください。馬車(コーチ)は、大切な乗客(クライアントや選手)を乗せ、その人が「行きたい」と望む目的地(ゴール)まで送り届けることが仕事です。ここで重要なのは、 「行き先を決めるのは御者(コーチ)ではなく、乗客(選手)である」 という点です。
もし御者が勝手に行き先を決めて連れ回したとしたら、それは誘拐ですよね。スポーツの指導もこれと同じです。
かつての指導現場では、コーチが絶対的な権力者として「俺についてこい」と行き先も方法も全て決めるスタイルが主流でした。
しかし、本来のコーチングとは、選手が心から望む目標(全国大会に行きたい、プロになりたい等)を聞き出し、そこへ到達するための安全で快適な、そして高性能な「乗り物(環境やサポート)」を提供することなのです。
また、馬車にはサスペンションが必要です。これは選手が直面するデコボコ道(スランプや失敗)の衝撃を和らげ、精神的な安全性を確保する役割と言えるでしょう。
コーチは選手を無理やり引っ張る存在ではなく、選手が自らの足でゴールへ向かうための最強のパートナーであり、黒衣(くろご)なのです。
「指導者=命令する人」という古いパラダイムから、「指導者=支援する人」への意識転換。この語源には、そんな深いメッセージが込められています。
コーチはあくまで「乗り物」であり、主役は乗客である「選手」です。目的地(目標)を決定する権利は選手にあり、コーチの役割はその目的地まで「送り届ける」ための最適なサポートを提供することにあります!
ティーチングとコーチングの違いと関係性

現場で最もよく議論になるテーマの一つが、「ティーチング(教える)」と「コーチング(引き出す)」の違いです。
「これからはコーチングの時代だから、教えちゃダメだ」と極端に考えてしまう方もいますが、それは少し危険な誤解かもしれません。
結論から言うと、この2つは対立するものではなく、 選手の習熟度や状況に応じて使い分けるべき「車の両輪」 のような関係です。どちらが優れているかではなく、「今、この選手にはどちらが必要か」を見極める目が重要になります。
まず「ティーチング」は、知識や経験のない相手に対して、正解やルール、基本的な型を「外から中へ」注入するアプローチです。
例えば、野球を始めたばかりの子供に「ボールの投げ方はどうすればいいと思う?」と聞いても、答えようがありませんよね。
怪我を防ぐためのフォームや、ルールの基礎は、まずティーチングによってしっかりと教え込む必要があります。これは建物を建てる際の「基礎工事」のようなものです。
一方「コーチング」は、ある程度の基礎ができている選手に対し、問いかけを通じて本人の中にある答えや気付きを「中から外へ」引き出すアプローチです。
試合中、予期せぬ状況になった時、ベンチからの指示を待つのではなく「今、どう動くべきだった?」と問いかけ、選手自身の判断力を養います。
これは基礎の上に建てる「内装やデザイン」のようなもので、その人らしさや応用力を育てるフェーズです。
| 項目 | ティーチング(Teaching) | コーチング(Coaching) |
|---|---|---|
| 情報のベクトル | 指導者 選手(一方通行) | 指導者 選手(双方向) |
| 主な目的 | 知識・技術の習得、安全管理 | 自律性・応用力・判断力の育成 |
| 適した対象 | 初心者、新しい技術の導入期 | 中級者以上、応用・実践期 |
| メリット | 短期間で効率よく伝達できる | 自分で考える力が身につく |
| デメリット | 指示待ち人間になりやすい | 時間がかかり、即効性が薄い |
重要なのは「順序」と「バランス」です。
初心者のうちはティーチングの比重を高くし(例えば9:1)、成長するにつれて徐々にコーチングの比率を上げていく(最終的には1:9など)。この移行プロセスを間違えると、基礎がないまま我流になったり、逆にいつまでも指示待ちで自分で決められない選手になったりしてしまいます。
「教えること」も、広義の意味では「選手を目的地へ送り届ける」ための手段の一つですから、柔軟に使い分けていきましょう!
指導者が知るべきコーチングの目的と役割

なぜ、私たちは貴重な時間と情熱を注いでスポーツコーチングを行うのでしょうか? 「目の前の試合に勝つため」「選手の技術を向上させるため」。
これらはもちろん間違いではありませんし、コーチとして当然目指すべき場所です。
しかし、これらはあくまで短期的な成果に過ぎません。スポーツコーチングが目指すべき究極の目的、それはスポーツという非日常の体験を通じて、 「社会で役に立つ、自立した人間を育てること」 にあります。
VUCA時代を生き抜く「ライフスキル」の獲得
現代社会は「VUCA(ブーカ)」の時代と呼ばれています。
変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)が高まり、昨日までの正解が今日は通用しない世界です。
そんな時代に求められるのは、上司や先生からの指示を待つ「従順な人間」ではなく、刻々と変化する状況を自ら分析し、決断し、行動できる 「自律型人材」 です。
スポーツの試合中、コーチはピッチの中に立って手取り足取り指示することはできません。選手は、プレッシャーのかかる場面で、瞬時に状況を判断し、自分の責任でプレーを選択しなければなりません。
つまり、スポーツのフィールドは、社会に出る前の「人生のシミュレーション環境」として最適なのです。
- 理不尽な判定や逆境に立ち向かう「レジリエンス(精神的回復力)」
- 仲間と協力して課題を解決する「チームワーク」
- 正解のない局面で決断を下す「意思決定力」
これらスポーツを通じて得られる経験値(ライフスキル)こそが、選手が引退し、長い人生を歩んでいく上での最強の武器となります。コーチの役割は、単に競技を教えること以上に、このライフスキルの獲得を支援することにあるのです!
勝利と人間形成を両立する「ダブル・ゴール」の哲学
この文脈で、現代の指導者が絶対に知っておくべき概念が、米国のNPO法人Positive Coaching Alliance(PCA)が提唱する 「ダブル・ゴール(Double-Goal)」 です。
「勝利を目指すこと」と「人間を育てること」は、しばしば対立構造(トレードオフ)で語られがちです。「勝つためには厳しく(時には暴力的に)指導しなければならない」という古い考え方がその典型です。
しかし、ダブル・ゴール・コーチングでは、この2つを完全に両立、あるいは相互作用させるものとして定義します。
| ゴールの種類 | 定義と役割 |
|---|---|
| 第一のゴール (スコアボード上の勝利) | 試合に勝ち、記録を更新すること。 これは選手が全力を尽くし、努力するための「燃料」として不可欠です。勝利を目指さないスポーツは、単なるレクリエーションになりかねません。 |
| 第二のゴール (人生の勝者となる) | スポーツを通じて人格を陶冶すること。 ここがコーチングの「真の目的」です。勝っても負けても、そこから何を学び、どう成長したかに焦点を当てます。 |
重要なのは、 「第一のゴール(勝利)を目指すプロセスの中で、第二のゴール(人間的成長)を達成する」という順序です。
人間的に成熟し互いを尊重し合えるチームは、心理的安全性が高く、ピンチの時でも崩れません。結果として、長期的な勝利(スコアボード上の勝利)をも手にする確率が高まります。
逆に、勝利のためならルール違反や暴言もいとわないチームは、一時的に勝てたとしても、長続きせず、最終的にはスポーツの価値そのものを破壊してしまいます。
コーチの言葉は選手の「インナーボイス」になる
コーチが発する言葉や態度は、選手たちの心に深く刻まれます。
特に育成年代において、コーチは親や教師に次ぐ、あるいはそれ以上に影響力のある「第三の大人」です。
コーチが「なぜミスをしたんだ!」と怒鳴り続ければ、選手は大人になっても「失敗したら怒られる」という恐怖心を抱え、チャレンジを恐れるようになるかもしれません。
逆に、「ナイスチャレンジ!次はどうする?」と問いかけ続ければ、困難に直面した時に「よし、どう解決しようか」と前向きに捉える思考癖(インナーボイス)が形成されます。
スポーツ庁も「スポーツ指導における暴力・ハラスメント等の根絶」を強く訴えており、これからのコーチには「プレーヤーファースト」の精神が不可欠です。
目の前の大会の結果は数年で忘れ去られるかもしれませんが、コーチが授けた「考え方」や「姿勢」は、その選手の人生を一生支え続けるのです。
(出典:スポーツ庁『スポーツにおける暴力・ハラスメント等の根絶に向けた取組』)
日本のスポーツコーチングの歴史と背景

日本のスポーツ指導がどのように変遷してきたのか、その歴史を振り返ることは、現在の課題を理解する上で非常に役立ちます。
大きな転換点となったのは、やはり1964年の東京オリンピックでした。
それ以前の日本、特に戦前・戦後のスポーツ界は、精神論や根性論が支配的でした。「水を飲むな」「うさぎ跳びで校庭10周」といった、今では科学的に否定されているトレーニングが当たり前のように行われていた時代です。
しかし、東京オリンピック開催に向けた強化策の中で、世界レベルの競技力をつけるためには、精神論だけでは通用しないことが明らかになりました。
オリンピック翌年の1965年、日本体育協会(現在のJSPO・日本スポーツ協会)は、西ドイツの制度を参考にスポーツトレーナーの養成事業を開始しました。
その後の1977年に、現在につながる「日本体育協会公認スポーツ指導者制度」が創設され、日本のコーチングにおける本格的な資格制度の土台が整えられました。
これが、日本のコーチングにおける「科学的指導」の夜明けと言えます。
それから半世紀以上が経過し、スポーツ医・科学は飛躍的に進歩しました。水分補給の重要性は常識となり、映像分析やデータ活用も当たり前になりました。
しかし、システムや知識がアップデートされても、現場の「文化」や「空気」はなかなか変わりきれていないのも事実です。いまだに体罰やハラスメントのニュースが後を絶たないのは、旧来の「師弟関係」や「絶対服従」の価値観が根強く残っているからかもしれません。
トップダウン型の古い指導から、ボトムアップ型(選手主体)の新しいコーチングへ。このパラダイムシフトを推進し、次の世代により良いスポーツ環境を手渡していくことが、現代のコーチに課せられた歴史的なミッションだと言えるでしょう!
選手のやる気を引き出す効果とメリット

「どうすれば選手のやる気が出るのか?」これは全てのコーチにとって永遠のテーマですよね。
ここで役立つのが、心理学の分野で確立されている 「自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT)」 です。
難しそうな名前ですが、中身はとてもシンプルで実践的です。
この理論では、人間が「自ら進んでやりたい!(内発的動機づけ)」と感じるためには、以下の3つの基本的心理欲求が満たされる必要があるとされています。
- 自律性(Autonomy)への欲求:「誰かにやらされている」のではなく、「自分の意志で選んでやっている」と感じたい欲求です。コーチが一方的にメニューを決めるのではなく、「AとB、どっちの練習からやる?」と選択肢を与えたり、練習内容の一部を選手に決めさせたりすることで満たされます。
- 有能感(Competence)への欲求:「自分はできる」「成長している」と実感したい欲求です。結果だけでなく、「先週よりパスが正確になったね」といったプロセスへの具体的なフィードバックや称賛によって高まります。逆に、高い要求ばかりで叱責が続くと、有能感は失われ、無気力になります。
- 関係性(Relatedness)への欲求:「自分はチームの一員として認められている」「コーチや仲間と繋がっている」と感じたい欲求です。心理的安全性が確保された環境で、失敗しても見捨てられないという安心感がある時に満たされます。
従来の「怒って恐怖で動かす」指導は、短期的には効果があるように見えます。しかし、それは「怒られないためにやる」という外発的な動機に過ぎず、コーチがいなくなればサボるようになりますし、プレッシャーがかかる場面で萎縮してしまいます。
対して、SDTに基づいて3つの欲求を満たすコーチングを行うと、選手は「楽しいからもっと上手くなりたい」という内発的なエネルギーで動くようになります。
この状態の選手は、練習の質が高く、逆境にも強く、そして何よりスポーツを心から楽しんでいます。いくつかの研究では、内発的動機づけの高いアスリートほどフロー状態を経験しやすいという正の関連が報告されています!
スポーツにおけるコーチングとは?資格と実践法

ここからは、理論を現場でどう活かすかという、より実践的なフェーズに入っていきます。「理屈はわかったけど、具体的にどう声をかければいいの?」「コーチになるにはどんな資格が必要?」といった疑問にお答えするため、使えるフレームワークや資格制度、そして少しリアルな仕事の現実まで、包み隠さずお話ししていきますね!
実践で使えるGROWモデルと指導の種類

コーチングを実践しようとした時、多くの人がぶつかる壁が「会話の進め方」です。
選手の考えを引き出そうとして、ただ漫然と雑談をしてしまったり、沈黙に耐え切れずに結局自分が喋りすぎてしまったり…。
そんな失敗を防ぐために、世界中のコーチが愛用している最強のフレームワークが 「GROW(グロー)モデル」 です。
これは、目標達成に向けた会話を4つのステップで構造化したもので、この順番通りに問いかけを行うだけで、自然と質の高いコーチングができるようになります。
【GROWモデルの4ステップ会話術】
- G (Goal):目標の明確化「今回の大会、どうなりたい?」と問いかけます。ここで重要なのは、コーチが望む目標(Have to)ではなく、選手が心から達成したい目標(Want to)を引き出すことです。「優勝しなければならない」ではなく「優勝したい!」という言葉が出るまで、深掘りしていきます。
- R (Reality):現状の把握「目標に対して、今はどんな状態?」と聞きます。ここでは主観的な感想(全然ダメです…)ではなく、客観的な事実(目標タイムより1秒遅れている、パス成功率が50%だ)を確認させます。コーチは鏡のように、選手の今の姿を正確に映し出してあげることが大切です。
- O (Options):選択肢の検討「そのギャップを埋めるために、どんな方法があるかな?」とアイデアを出させます。ここがコーチの腕の見せ所です。「もっと走り込む」という一つの答えで満足せず、「他には?」「もし制限がなかったらどうする?」と粘り強く問いかけ、選手の中から意外なアイデアを絞り出します。
- W (Will):意思決定と行動計画「じゃあ、いつから、何をやる?」と具体的なアクションプランに落とし込み、最後に「やる?」とコミットメント(約束)を取り付けます。自分で決めたことだからこそ、選手は責任を持って実行するようになります。
また、コーチングには状況に応じた「使い分け」も必要です。いつでも質問すればいいわけではありません。
以下の4つのアプローチを、選手のレベルや緊急度に合わせてギアチェンジしていきましょう。
| スタイル | アプローチ | 適した場面 |
|---|---|---|
| TELL(指示) | 答えを教える | 初心者への導入、緊急時、安全に関わる時 |
| SELL(提案) | 案を示して納得させる | 新しい戦術の導入、選手が煮詰まっている時 |
| ASK(質問) | 考えを聞き出す | 中級者以上、練習の振り返り、タイムアウト時 |
| DELEGATE(委譲) | 判断を任せる | 上級者、キャプテンへの権限委譲、試合中の判断 |
目指すべきは、TELLからスタートして、徐々にASKを増やし、最終的にはDELEGATE(任せる)の状態へ移行することです。
究極のコーチングとは、「コーチがいなくても、選手たちだけで優勝できるチーム」を作ることだと言われています。少し寂しい気もしますが、そこを目指して日々の関わり方を工夫してみてください。
公認スポーツ指導者資格の種類と概要

「コーチになるのに資格は必要なの?」と聞かれることがよくありますが、結論から言うと、日本では「必須ではないが、持っていた方が圧倒的に有利で信頼される」という状況です。
特に、子供を預かる少年団や部活動、クラブチームでは、資格の有無が保護者からの信頼度に直結します。
日本において最も標準的で認知度が高いのが、 日本スポーツ協会(JSPO) が認定する「公認スポーツ指導者」資格です。
この資格制度は、医・科学的な知識に基づいた安全で効果的な指導ができる人材を育成するために作られました。
主な資格の種類は、指導する対象やレベルに合わせて以下のように階層化されています。
| 資格名称 | 主な役割と対象レベル |
|---|---|
| コーチ1(旧指導員) | 地域スポーツクラブやスポーツ少年団などで、基礎的な知識に基づき、安全で楽しい指導を行うための資格です。初めてコーチをする方はここからスタートするのが一般的です。 |
| コーチ2(旧上級指導員) | 地域レベルの大会を目指す選手やチームに対して、技術的な指導やチーム運営を行うための資格です。より専門的な競技知識が求められます。 |
| コーチ3・4 | 全国大会や国際大会レベルのトップアスリートを指導するための高度な資格です。国体監督やナショナルチームのコーチには、このレベルの資格保持が求められることが多いです。 |
| アスレティックトレーナー | 怪我の予防、応急処置、リハビリテーション、コンディショニングなど、選手の身体面をサポートする専門家です。非常に難易度が高いですが、チームに欠かせない存在です。 |
また、サッカー(JFA)やバスケットボール(JBA)のように、競技団体が独自のライセンス制度(S級、A級、B級など)を設けている場合も多くあります。
これらはJSPOの資格と相互連携していることが多いですが、自分が指導したい競技がどのようなライセンス体系になっているか、各協会の公式サイトで確認することをおすすめします。
資格を取る過程で学ぶ「発育発達」「スポーツ心理学」「リスクマネジメント」などの知識は、現場での迷いを消し、自信を持って指導にあたるための大きな武器になります。「経験則だけの指導」から脱却するためにも、資格取得は非常に意義のあるチャレンジだと思います!
スポーツコーチの年収や仕事の現実

さて、ここからは少しシビアなお金とキャリアの話をしましょう。
「スポーツコーチとして生計を立てたい」という夢を持つ方は多いですが、その現実は決して甘くありません。
まず、スポーツコーチの働き方は大きく分けて3つあります。
1. 正社員・契約社員(プロコーチ、スクール指導者)
スポーツクラブやスイミングスクール、プロチームの運営会社などに雇用される形態です。
比較的安定していますが、求人情報サイトなどのデータを見ると、正社員・契約社員のスポーツコーチの年収はおおむね300万〜500万円前後とされることが多い一方で、種目や地域、クラブの規模によって大きく変動します。
早朝から深夜までの勤務や、土日祝日の稼働が当たり前なので、時給換算すると決して高くはないケースも多いのが実情です。
トッププロチームの監督やコーチになれば、年俸数千万円という夢のある世界もありますが、それはほんの一握りであり、成績不振なら即解雇という強烈なプレッシャーと隣り合わせです。
2. アルバイト・パート・業務委託
地域のスポーツ教室や部活動指導員(外部コーチ)として、コマ数や時間給で働く形態です。時給は1,000円〜2,000円程度、あるいは1レッスン数千円という設定が多く、これだけで生計を立てるには複数の現場を掛け持ちする必要があります。
勤務時間や担当コマ数によっては、年収換算で200万円台にとどまるケースもあります。
多くのコーチが、他の仕事をしながら「副業」として関わっているのが現実です。
3. ボランティア(無償指導者)
実は、日本のスポーツ現場、特に少年スポーツ(スポーツ少年団など)を支えているのは、この層が非常に大きな割合を占めています。
保護者がコーチを兼任したり、地域のおじさんが手弁当で教えたりしています。交通費すら出ない完全ボランティアも多く、「情熱」と「善意」だけで成り立っているシステムには、指導の質の維持や継続性の面で限界がきているとも指摘されています。
もしコーチを職業にしたいなら、「指導力」だけでなく「経営力(集客やクラブ運営)」を身につけて自分でクラブを立ち上げるか、英語やデータ分析などの「プラスアルファのスキル」を磨いて希少価値を高めることが重要になってきます!
指導現場の課題と保護者との関係構築

コーチングの技術以上に、現場のコーチたちを悩ませ、時には辞任にまで追い込むのが「人間関係のトラブル」です。
中でも「保護者との関係」と「スタッフ間の不和」は二大トラブルと言っても過言ではありません。
例えば、保護者からよくあるクレームに「うちの子をもっと試合に出してほしい」「なんであの子がレギュラーなのか」というものがあります。
これは、コーチと保護者の間で「チームの目的(勝利優先か、育成優先か)」や「評価基準」が共有されていないことが原因で起こります。
また、いわゆる「パパコーチ問題」も深刻です。自分の子供が所属するチームのコーチを保護者が務める場合、どうしても「我が子を特別扱いしているのではないか」という色眼鏡で見られがちです。
実際に、自分の子ばかり厳しく指導したり、逆に甘やかしたりしてしまうことで、チーム全体の信頼関係が崩壊するケースは後を絶ちません。
こうしたトラブルを回避し、保護者を「モンスターペアレント」ではなく「最強のサポーター」にするための鍵は、以下の2点に尽きます。
- 情報の透明化(見える化):「なぜこの練習をするのか」「選考基準は何か」を、シーズン前の保護者会や定期的な通信などでオープンにします。ブラックボックスを作らないことが、不信感を消す第一歩です。
- ダブル・ゴールの共有:「私たちは勝利も目指しますが、それ以上に子供たちの人間的成長を大切にします」という理念(ダブル・ゴール)を、しつこいくらいに伝えます。そして、「サイドラインからの罵声は子供の成長を阻害するので、ナイスプレーを称える応援をお願いします」と、保護者の役割(Emotional Tankを満たす係)を具体的に依頼するのです。
さらに、コーチ自身も「グッドコーチ」としての倫理観を持つ必要があります。
2015年にコーチング推進コンソーシアムが発表した「グッドコーチに向けた7つの提言」では、暴力・ハラスメントの根絶はもちろん、「常に学び続けること」や「社会に開かれたコーチング」が求められています。
閉鎖的な空間で独善的な指導をするのではなく、医療機関や学校、家庭と連携し、社会全体で選手を育てる意識が、これからのコーチには不可欠なのです。
まとめ|スポーツのコーチングとは自立を促す技術
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!
ここまで、スポーツにおけるコーチングの世界を深く掘り下げてきましたが、いかがでしたでしょうか。
コーチングとは、単に技術を教えることではありません。
それは、選手という一人の人間と向き合い、対話を通じて彼らの内側にある可能性(答え)を引き出し、自律的な成長を支援する、非常にクリエイティブで尊い営みです。
語源である「コチの馬車」を思い出してください。主役はあくまで乗客である選手たち。私たちコーチの役割は、彼らが「自分たちの足で歩いていけるようになる」その日まで、安全で快適、そして時には背中を押してくれる最高の「乗り物(環境)」を提供し続けることです。
これからコーチを目指す方も、すでにご活躍の方も、もし指導に行き詰まった時は、「今、自分は選手を目的地へ運ぶ手助けができているか?」「無理やり自分の行きたい場所へ連れて行っていないか?」と問いかけてみてください。
その問いの先に、きっと選手たちの輝くような笑顔と成長が待っているはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。あなたのコーチングライフが、選手たちと共に素晴らしいものになることを、心から応援しています!
参考リンク:
JSPO 公認スポーツ指導者資格の公式ページ
https://www.japan-sports.or.jp/coach/tabid/63/Default.aspx
スポーツ庁「スポーツにおける暴力・ハラスメント等の根絶に向けた取組」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop10/list/1412106.htm
「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」など JSPO の暴力根絶ページ
https://www.japan-sports.or.jp/cleansport/tabid1355.html
PCA「THE DOUBLE-GOAL COACH®」サマリーPDF
https://cdn1.sportngin.com/attachments/document/4d48-2635766/DGC_Key_Points_and_Summary.pdf
Self-Determination Theory(自己決定理論)のコーチ向け解説
https://balanceisbetter.org.nz/self-determination-theory-what-is-it-and-what-does-it-mean-practically-for-coaches/
Self-Determination Theory – UK Coaching
https://www.ukcoaching.org/ukc-club/resources/self-determination-theory/
「Coach–Athlete Relationship」の動機づけモデル論文(Mageau & Vallerand, 2003)
https://selfdeterminationtheory.org/wp-content/uploads/2014/04/2003_MageauVallerand_Coach.pdf
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